「あれもやらなきゃ、これも返信しなきゃ…」
「気づけば一日が終わっていて、重要な仕事が何も進んでいない…」
複数の案件を抱えて、頭の中が常にパニック状態になっていませんか?その焦り、めちゃくちゃわかります。
実は僕も、かつては会社員として5つのメディアを担当し、抜け漏れで上司に詰められ、完全にキャパオーバーして「自分はなんて能力が低いんだ…」と落ち込む日々を送っていました。
しかし現在は、フリーランスとして11ものプロジェクトを同時に回しています。(もちろん、プロジェクトにより、稼働の多い少ないはありますが。)
しかも、当時のような焦りやパニックは一切ありません。むしろ、毎日涼しい顔で定時(自分の決めた時間)に仕事を終えています。
なぜ、扱える仕事の量が倍以上になったのに、余裕が生まれたのか?
結論から言うと、能力が上がったわけではありません。変えたのは「やり方」だけ。
具体的には、「マルチタスク(同時並行)」をやめて、「シングルタスクの高速切り替え」に変えたのです。
この記事では、かつての僕と同じように「マルチタスクが苦手」と悩むあなたへ、僕が実践して効果があった「思考法」と「具体的な技術」を包み隠さずお伝えします。
この記事を読み終える頃には、「自分には能力がない」という誤解が解け、明日からの仕事が驚くほどスムーズに回り始めているはずです。
なぜ私たちは「マルチタスク」でパニックになるのか?
そもそも、なぜ複数の仕事を抱えると、私たちはパニックになってしまうのでしょうか。その原因は、あなたの性格や能力ではなく、もっと根本的な「脳の構造」にあります。
脳は「同時処理」ができるようには作られていない
残酷な事実をお伝えします。人間の脳は、構造的に「複数のことを同時に考える」ことはできません。
私たちが普段「マルチタスク」だと思っている行為(例:メールを返しながら、部下の相談を聞くなど)は、実は脳が「メール」と「会話」の間で、超高速で注意を切り替えているに過ぎません。これを専門用語で「タスクスイッチ(Task Switching)」と呼びます。
この「切り替え」には、実は膨大なエネルギーが必要です。
- 脳の限界: フランス国立保健医学研究所の研究によると、「人間の脳が同時に追求できる目標は2つが限界」であり、それ以上は処理機能がパンクすることが分かっています。(出典:Science誌)
- 生産性低下: 米国心理学会の研究などでは、タスクを頻繁に切り替えるだけで、生産的な時間の約40%が失われるというデータもあります。
つまり、マルチタスクが苦手なあなたは、能力が低いのではありません。脳の構造的に「無理なこと」をしようとして、脳がオーバーヒートしているだけなのです。
【実体験】5つのメディア担当で陥った「思考の分断」の連続
僕自身、この「脳のオーバーヒート」に苦しめられた過去があります。
会社員時代、僕はSEO責任者として5つのメディア(オウンドメディアやアプリなど)を担当していました。当然、関係者は膨大です。Slackの通知音は鳴り止まず、あちこちから「ちょっといいですか?」と相談が飛んできます。
当時の僕は「全部に対応しなきゃ」と必死でした。
しかし、企画や戦略といった「深く考える仕事」をしていても、数分おきに強制的に意識を持っていかれます。いわゆる「集中の分断」です。
その結果、何が起きたか?脳のメモリが常にいっぱいで、優先度の低いタスクや、口頭で言われた細かい依頼(「これやっといて」)が、ポロポロと頭から抜け落ちていくのです。
「あれ、どうなった?」と上司に聞かれ、青ざめる日々。
休日にSlackの通知を見て冷や汗をかくこともありました。「やっぱり自分はマルチタスクが苦手だ…向いてないんだ…」と、当時は本気で自信を喪失していました。
11のプロジェクトを涼しい顔で回す「5つの技術」

そんな僕でも、今は11のプロジェクトを同時に、しかもトラブルなく回せています。僕がやったことは、シンプルで「脳のリソースを徹底的に節約する仕組み」を作ること。
ここからは、マインド・環境・対人・管理・習慣の5つの視点で、その具体的な技術を紹介します。
【緊急処置】まずは脳内のメモリを強制開放する
具体的な技術に入る前に、もしあなたが今、まさにパニック状態なら、まずはこれをやってください。
「気になっていることを、全て紙(またはメモアプリ)に書き出す」
これだけです。「ブレインダンプ」と呼ばれる手法ですが、脳のメモリ(ワーキングメモリ)を占領している「未完了タスク」を外部に吐き出すことで、脳は劇的に軽くなります。
整理は後でいいので、まずは書きなぐってください。これだけで、パニックは半分収まります。ブレインダンプについて詳しく解説した記事もあるので、あわせて読んでみてください。

1. 思考編:完璧主義を捨てて「60点」でボールを投げる
マルチタスクが苦手な人は、真面目で完璧主義な傾向があります。
「100点の状態で出さなきゃ」と抱え込むと、そのタスクが渋滞の原因(ボトルネック)になり、結果的に他のプロジェクトにしわ寄せがいき、全体が崩壊します。
僕はフリーランスになってから、「まずは60点で出す」ことを徹底しました。
具体的には、以下のルールで動いています。
- 資料作成: いきなりパワポを作らず、まずは「手書きの構成案(骨子)」だけをチャットで送る。
- 目的のすり合わせ: ToDoの目的やGOALが曖昧なまま動くのではなく、クライアントやパートナーなどとまずはここを明確にすることから始める。
- 記事執筆: 推敲は後回しにして、まずは「見出しと箇条書き」だけで全体像を作り、確認をもらう。
完成度は低くてもいいから、一旦ボールを投げる。そしてフィードバックをもらって直す。
このサイクルに変えるだけで、手戻りが減り、タスクの回転速度が劇的に上がります。何より、「抱え込んでいる」という精神的な重荷が消えるのが最大のメリットです。

2. 環境編:物理的に「話しかけられない」状況を作る
集中力の最大の敵は、自分以外の誰かからの「割り込み」です。これを防ぐには、意思の力ではなく「物理的な環境」で遮断するしかありません。
リモートワークができるなら、その利点を最大限活かしましょう。僕の場合、作業中は全ての通知をオフにします。そして、物理的に一人になれる場所で作業します。
【今日からできるアクション】
1. スマホを別室に置く:視界に入るだけで集中力は落ちます。充電器ごとリビングに置いてきましょう。
2. 「おやすみモード」を活用:MacやWindowsの通知オフ機能を使い、指定時間は一切のポップアップが出ないようにします。
3. 会議室の活用:出社している人で許されるなら、会議室などを一人で取ってしまう。
「たかが数秒の通知確認でしょ?」と思うかもしれません。しかし、ミシガン州立大学の研究では、「作業が2.8秒中断されるだけで、ミスの発生率が2倍になる」という衝撃的なデータが出ています。
ミシガン州立大学のアルトマンらの研究では「300人の学生に、パソコンで集中力が必要な作業をさせ、その途中でさまざまな秒数の広告のポップアップ画面を出して作業を中断させる」という実験を行い、どの程度の時間で学生の集中力が途切れるかを調べました。
その結果、ポップアップによって作業が2.8秒中断されると、ミスの発生率が2倍になり、4.4秒中断されると、ミスの発生率が4倍になることがわかったのです。
引用:たった「2.8秒」で集中力が低下、ミスは2倍に…科学的に明らかなマルチタスクの「恐るべき弊害」(堀田 秀吾) – 3ページ目 | マネー現代 | 講談社
「今は絶対に話しかけられない」という安心感があるだけで、脳のスペックは数倍に跳ね上がります。環境作りは、最高の投資です。
3. 対人編:「即レス」をやめて自分のペースを守る
かつての僕が失敗した最大の要因は「即レス」でした。
即レスとは、「相手の時間を生きている」のと同じです。連絡が来るたびに反応していたら、あなたの脳はずっと「細切れ」のまま、深い思考などできるはずがありません。
今の僕は、連絡は「自分のタイミング」でまとめて返すようにしています。
【具体的な実践テクニック】
「でも、無視したら角が立つんじゃ…」と不安な方は、SlackやTeamsのステータスメッセージを活用しましょう。
・ステータス例: 「13:00〜15:00 集中作業中(連絡つきません)」
・自動応答: 「現在作業中のため、17時以降にまとめて返信します。急ぎの場合は電話ください」
こう宣言しておくだけで、相手も「今は忙しいんだな」と理解してくれます。
中途半端に即レスするより、しっかりと時間を取って質の高い回答をする方が、長期的には信頼されます。報連相の記事でも解説していますが、信頼の正体は「即レス」ではなく「成果」です。

4. 管理編:タスクは「松竹梅」で優先度を固定する
複数のプロジェクトを抱えてパニックになる一番の原因は、「次になにをやるべきか?」と迷うことです。この「迷い」が、脳のワーキングメモリを無駄に食いつぶします。
解決策はシンプル。「外部脳(メモやツール)」にすべてを吐き出し、優先度を固定することです。
僕は以下の「松竹梅メソッド」で管理しています。
【タスク管理の3ステップ】
1. 週次レビュー(日曜夜): 今週やるべきことの全体像を把握し、カレンダーに大枠の予定を入れる。
2. 日次リスト(毎朝5分): その日のタスクを書き出し、以下の3つに分類する。
梅(Must): 今日やらないとやばい仕事(1〜3個まで)
竹(Should): できれば今日やりたい仕事
松(Want): 余裕があればやる、または明日以降でいい仕事
3. 鉄の掟: 毎日、とにかく「梅」を終わらせることに全集中する。「竹」「末」は終わらなくても全然OK。
ツールは『Todoist』でも『Obsidian』でも、手書きのメモでも何でも構いません。重要なのは、「これさえやれば今日はOK」というラインを明確にすることです。これだけで、脳のパニックは鎮まります。

ちなみに僕はデイリーでもToDoを管理していますが、週次でもToDoを整理してざっくりと優先度を整理しています。その方法について詳しく解説した記事もあるのであわせてどうぞ。

5. 習慣編:切り替えの「儀式」を持つ
プロジェクトAの作業を終えて、プロジェクトBに移る時。
脳にはまだ、前の仕事の「残りカス(思考のノイズ)」が残っています。これが蓄積すると、脳疲労を起こします。
だからこそ、意識的に「区切り」をつける儀式を持ってください。
僕の場合、DailyノートのToDoリストを眺めながら、タバコ(IQOS)を一服するのが儀式です。
「よし、次はこれだ」と優先度を再確認し、脳をリセットしてから、次のポモドーロ(25分)を開始します。
【儀式の具体例】
場所を変える: Aの仕事はデスクで、Bの仕事はソファでやる。
飲み物を変える: コーヒーから炭酸水に変える。
身体を動かす: 立ち上がって大きく3回深呼吸する。
「これをしたら次は別の仕事」という合図を脳に送ることで、シングルタスクの切り替えがスムーズになります。
僕が毎日やっている「ポモドーロ・テクニック」について詳しく解説した記事もあるので、あわせて読んでみてください。

マルチタスクが苦手な人によくある質問(FAQ)
最後に、マルチタスクに悩む人からよく聞かれる5つの疑問について、本音でお答えします。
- 1. マルチタスクが苦手なのはADHD(発達障害)だからですか?
-
可能性はゼロではありませんが、そもそも「人間の脳はみんなマルチタスクが苦手」です。
確かにADHDの特性(注意欠如・多動性)は、タスク管理の難しさと関連があります。しかし、前述した通り、健常者であっても脳の構造的に「同時処理」はできません。
「病気だからできないんだ」とラベルを貼って諦めるよりも、「脳の仕様上、工夫が必要なだけ」と捉え、自分の脳に合った「取扱説明書(仕組み)」を作ることにエネルギーを注ぎましょう。診断を受けることも一つの手ですが、まずは環境と習慣を変えてみることを強くおすすめします。 - 2. 会社員なので「即レス」をやめるのが難しいです…
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「小さな集中タイム」を作ることから始めましょう。
いきなり一日中通知を切るのは勇気がいると思います。まずは、「午前中の1時間だけ」など、小さな範囲で始めてみてください。
Googleカレンダーに「集中作業(連絡つきません)」と予定を入れてブロックするのも効果的です。
重要なのは「常に即レスしなきゃ」という思考の癖を少しずつ手放すことです。「1時間連絡が取れなくても、会社は潰れない」という事実を、小さな実験を通して体感してください。 - 3. マルチタスク能力を鍛えるトレーニング方法はありますか?
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ないです。「同時処理能力」を鍛えるのは、人間が空を飛ぶ練習をするようなものです。
残念ながら、脳のワーキングメモリの容量を劇的に増やすトレーニングは存在しません。
目指すべきは「2つを同時にこなす能力」ではなく、「1つを圧倒的な速さで終わらせ、次に移るスピード(切り替え力)」です。
「マルチタスクができる人」に見えるあの人も、実は超高速でシングルタスクを回しているだけです。鍛えるべきは「迷わず捨てる決断力」と「没頭する集中力」です。 - 4. 女性の方がマルチタスクが得意って本当ですか?
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科学的な定説ではありません。「役割」による慣れの影響が大きいです。
よく言われる説ですが、近年の研究では性差による能力の違いはほとんどないと言われています。
ただ、育児や家事など、状況的に「マルチタスクを強いられる場面」が女性に多いため、結果的に「タスクスイッチ」に慣れている人が多い可能性はあります。
性別に関係なく、マルチタスクは脳に負荷をかけます。得意・不得意というよりは、「どれだけ効率的な型(ルーティン)を持っているか」の差だと考えましょう。 - 5. 優先順位が全部「松(最優先)」に見えて選べません…
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「明日やっても死なない仕事」は、すべて「竹」以下に落としてください。
真面目な人ほど、すべての仕事を「重要」と捉えがちです。しかし、今日中に終わらせないと会社が倒産したり、信頼が崩壊したりする仕事は、実はほとんどありません。
勇気を持って基準を下げてください。「今日中にやらないと誰かが死ぬか?」と自問自答してみましょう。全部が「梅」の状態は、アクセルを全開にしながらブレーキを踏んでいるのと同じです。まずは「今日やる3つ」以外を、意識的に視界から消す勇気を持ってください。
まとめ:マルチタスク能力は鍛えなくていい
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今の僕が11のプロジェクトを回せているのは、僕の能力が上がったからではありません。「5つの技術」を使って、脳のリソースを最大限に節約しているだけです。
マルチタスク(同時処理)なんて、できなくて当たり前。
そんな幻の能力を鍛える必要はありません。必要なのは、あなたの脳を守り、シングルタスクに集中させてあげる「仕組み」だけです。
才能ではなく、仕組みで解決できます。
まずは明日の朝、今日やるべきタスクを書き出し、「松・竹・梅」に分けることから始めてみませんか?
その小さな一歩が、あなたの働き方を劇的に変えるきっかけになるはずです。

