「優先順位をつけようとしても、全部大事に見えて選べない」
「ToDoリストがいつまで経っても減らない」
「大事な仕事があるのに、メール返信や雑務で1日が終わってしまう」
フリーランスやデスクワーカーなら、誰もが一度はこんな「タスクの溺死状態」を経験するのではないでしょうか。
僕もかつてはそうでした。
毎朝、膨大なToDoリストを前に絶望し、「とりあえず手っ取り早いものから…」とチャットの返信を始め、気づけば夕方。「本当にやるべきだった企画書作成」には1ミリも着手できていない。そんな毎日を繰り返していました。
しかし、断言します。タスクが片付かないのは、あなたの処理能力が低いからではありません。「優先順位の決め方」を間違えているだけです。
多くの人は、その日の朝に「さて、どれからやろうか?」と考えます。実は、これが間違いの始まりです。優先順位は、その場で考えてはいけません。「週次(Weekly)」で俯瞰して決めるものだからです。
そしてもう一つ。優先順位付けとは、「やる順番を決めること」ではありません。「やらないことを決めること(捨てる技術)」です。
この記事では、現役フリーランスである僕が実践している、「迷いがゼロになるタスクの優先順位付け」の全技術を公開します。
精神論ではありません。「緊急度×重要度マトリクス」という古典的なフレームワークを、現代の「週次計画」というシステムに組み込むための具体的な手順です。
読み終わる頃には、あなたのToDoリストから「見せかけのタスク」が消え、本当に重要な仕事だけに集中できる状態になっているはずです。
なぜあなたの「優先順位」はいつも崩壊するのか?
「重要度が高い仕事からやりましょう」
「緊急度と重要度のマトリクスで分類しましょう」
そんなビジネス書の教えを、知らない人はいないはずです。
頭ではわかっている。それなのに、なぜ私たちは今日もどうでもいいメール返信に追われ、将来のための勉強や、重要なプロジェクトを後回しにしてしまうのでしょうか?
それは、あなたの意志が弱いからではありません。脳の構造的な欠陥と、優先順位に対する「誤解」が原因です。
脳は「重要」より「緊急」に反応するようにできている
人間には、「現在バイアス(Present Bias)」という厄介な本能が備わっています。
これは、将来得られる大きな利益(例:スキルアップ、新規事業の準備)よりも、直近の小さな報酬や脅威(例:チャットの通知、目の前の雑用)を過大評価してしまう性質のことです。
- 重要タスク(A): 3ヶ月後の売上を作るための企画書作成
- 緊急タスク(B): 今ピコンと鳴ったチャットへの返信
冷静に考えれば「A」の方が圧倒的に価値が高いはずです。
しかし、脳は「B」の通知音を聞いた瞬間、反射的にそちらを優先してしまいます。緊急性が高いものは、脳にとって「無視できない脅威」として認識されるからです。
つまり、「意志の力」だけで優先順位を守ろうとするのは、本能に逆らって戦うようなものです。負けて当たり前なのです。だからこそ、意志力に頼らない「仕組み(環境設計)」が必要になります。
ちなみに:現在バイアス(Present Bias)とは?
行動経済学で広く知られる概念で、「明日もらえる2万円」より「今日もらえる1万円」を選んでしまうような、目先の利益を優先する心理傾向を指します。
心理学者のダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞)らが提唱した「プロスペクト理論」とも深く関わっており、「損失回避(損をしたくない)」という心理と組み合わさることで、私たちは「今の快楽」や「今の危機(緊急タスク)」に抗えなくなってしまうのです。
夏休みの宿題を最終日まで放置してしまうのも、ダイエット中にケーキを食べてしまうのも、すべてこの脳のメカニズムによるものです。
「順番」をつけようとするから失敗する
もう一つの大きな誤解は、「優先順位をつける=やる順番をつけること」だと思っていることです。
ToDoリストに10個のタスクを書き出し、上から順番に1番、2番、3番…と番号を振っていく。
一見、正しいやり方に見えます。しかし、これには致命的な落とし穴があります。
それは、「10個すべてをやる前提」で考えているということです。
時間は有限です。そして、タスクは無限に湧いてきます。10個すべてをやろうとすれば、必ず時間が足りなくなります。その結果、どうなるか?
番号の後半にある「緊急ではないが重要なタスク(例:読書、振り返り)」が、永遠に先送りされるのです。
本当の優先順位付けとは、リストの上位を決めることではありません。下位のタスクを「やらない(捨てる)」と決断することです。
「今日はこれとこれしかやらない。あとは捨てる(または来週に回す)」
この「捨てる勇気」を持たない限り、あなたの時間は永遠に「誰かからの依頼(緊急タスク)」に食いつぶされ続けることになります。
【基礎編】タスクを仕分ける「緊急度×重要度」マトリクスの正しい使い方

では、具体的にどうやって「捨てる」判断をすればいいのでしょうか?
ここで登場するのが、かの有名な「アイゼンハワー・マトリクス(緊急度×重要度マトリクス)」です。
「ああ、あれね。知ってるよ」と思った方も、少しだけお付き合いください。多くの人は、このマトリクスの「本当の使い方(捨てる基準)」を知りません。
まずは、あなたの抱えているタスクが、この4つのどれに当てはまるかを確認してみましょう。
第1象限(必須):今すぐやらないと致命傷になる仕事
【緊急度:高 / 重要度:高】

ここにあるのは、「放置するとトラブルになる仕事」です。
- 例)
- 今日が納期のクライアントへの納品
- 税金の支払い(今日まで)
- クレームへの謝罪対応
- サーバーダウンなどの緊急トラブル
- 虫歯の激痛による歯医者通い
アクションは「即・消化」一択。
ここは議論の余地がありません。やらないと社会的信用を失うか、大きな損失が出ます。「やる気が出ない」とか言ってる場合ではなく、機械的に片付けるしかありません。
ただし、ここに時間を使いすぎている人は要注意です。常に何かに追われている「自転車操業」の状態だからです。
本来目指すべきは、事前の計画によってこの領域のタスクを極限まで減らすことです。
第2象限(投資):緊急じゃないけど、将来を楽にする仕事
【緊急度:低 / 重要度:高】

ここにあるのは、「今の自分をレベルアップさせる仕事」です。
- 例)
- スキルアップのための勉強・読書
- 業務マニュアルの作成(未来の時短のため)
- 健康管理(ジム、人間ドック)
- 週次の振り返りと翌週の計画
- 新規プロジェクトの準備
アクションは「先取り」して確保する。
ここが今回の記事の最重要ポイントです。多くの人は、ここを「時間ができたらやろう」と考えます。しかし、断言します。時間は永遠にできません。第1・第3象限のタスクが、あなたの時間を食いつくすからです。
この領域は、今日やらなくても誰も怒りません。困りません。ですが、1年後に困るのは「あなた自身」です。ここを積み上げた人だけが、フリーランスとして生き残れます。
意図的にスケジュールをブロック(先取り)しない限り、永遠に実行されません。「重要だとわかっているけど動けない」という方は、こちらの記事で「着手の技術」を学んでください。

第3象限(錯覚):緊急だけど、実は重要じゃない仕事
【緊急度:高 / 重要度:低】

ここにあるのは、「他人の都合で割り込んでくる仕事」です。
- 例)
- 目的のない定例会議への出席
- 大量に来るメールやチャットへの即レス
- 突然かかってくる営業電話
- 「ちょっといい?」と頼まれる雑用
- 飲み会の幹事やスケジューリング
アクションは「断る」か「減らす」。
ここが最大の罠(沼)です。これらは「緊急(ピコンと通知が来る)」なので、脳はこれを「重要だ!」と錯覚します。
やってしまうと「仕事をした気(充実感)」になれますが、冷静に振り返ってみると「あれ? 今日は誰かの世話をしただけで、自分の成果はゼロじゃない?」となります。
優先順位付けとは、いかにこの第3象限を「無視する(勇気を持つ)」かにかかっています。通知に振り回されてしまう人は、こちらの記事で「デジタル環境の整備」を行ってください。

第4象限(浪費):緊急でも重要でもない仕事
【緊急度:低 / 重要度:低】

ここにあるのは、「仕事からの逃避」です。
- 例)
- ダラダラ見るSNS(XやInstagram)
- 目的のないネットサーフィン
- 愚痴を言うだけの生産性のない飲み会
- テレビのワイドショーを眺める時間
アクションは「やめる」。
これは仕事ではありません。ただの時間潰しです。もちろん「リフレッシュ(第2象限)」として戦略的に休むのはOKです。でも、無意識にスマホを触って「気づいたら1時間経っていた」というのは、人生の浪費でしかありません。
まずは「自分が逃避している」と自覚することから始めましょう。
【実践編】迷いがゼロになる「週次計画」の立て方
マトリクスの意味は理解できたと思います。ですが、理解しただけでは現実は変わりません。これを「具体的な行動(スケジュール)」に落とし込む作業が必要です。
それが、僕が毎週日曜日の午前中に必ずやっている「週次計画」です。所要時間はたったの30分。この30分が、翌週の40時間を支配します。

Step1:頭の中身をすべて「外部脳」に吐き出す(ブレインダンプ)
まずは、頭の中にある「やらなきゃいけないこと」「気になっていること」「不安なこと」をすべて書き出します。
いきなりカレンダーアプリを開いてはいけません。
優先順位を決める前に、まずは「選択肢(手持ちカード)」をすべてテーブルの上に並べる作業が必要です。
- 用意するもの: 紙とペン(A4用紙推奨)、またはテキストエディタ(Obsidianやメモ帳)。
- やり方: 5分〜10分、タイマーをセットして、思いつく限り書き殴ってください。
【書き出しの例】
・A社の請求書を作る
・記事の構成案を考える(タイトル案まで)
・歯医者の予約をする
・なんか部屋が散らかっていてイライラする
・確定申告の準備しなきゃ…
・Amazonで洗剤をポチる
仕事もプライベートも混ぜこぜで構いません。
「あ、あれもやらなきゃ」という脳内のノイズ(未完了タスク)が残っていると、計画を立てる際の集中力が著しく低下します。まずは脳のメモリを完全に空っぽにしてください。
「書き出してもスッキリしない」という方は、下記の記事で正しい吐き出し方のコツを解説しています。

Step2:タスクを「松・竹・梅」に仕分ける
書き出したタスクリストを眺めながら、各タスクの横に優先度マークをつけていきます。ここで使うのは、マトリクスを実践向けに簡略化した「松竹梅メソッド」です。
1. 松(Must):今週絶対に終わらせる
ここには「第1象限(締切あり)」と、「第2象限(重要タスク)」の両方が入ります。
多くの人は「第1象限」だけで松を埋めてしまいますが、それでは現状維持しかできません。
必ず「ブログ記事を1本書く」「新しいツールの勉強をする」といった第2象限のタスクを、最低でも1つは「松」に昇格させてください。
2. 竹(Should):できればやる
やったほうがいいけど、来週に回しても死なない仕事です。
(例:急ぎではないメール返信、資料のブラッシュアップ、散髪)
3. 梅(Want):余裕があればやる
できたらラッキー。やらなくてもOKな仕事です。
(例:新しいガジェットのリサーチ、デスクの模様替え)
この仕分けが終わった時点で、「松」以外は「できなくても自分を責めない」と腹を括ってください。これが精神衛生上、最も大切です。
松竹梅の優先順位付けについては下記の記事にも書いているので、あわせて読んでみてください。

Step3:カレンダーに「第2象限(松)」を先取りで配置する
ここが最重要ステップです。
多くの人は、空いている隙間時間に重要なタスクを入れようとします。これでは絶対に実行できません。
「大きな石(第2象限)」を先にスケジュールに入れて、その隙間に「砂(雑務)」を入れるのです。
Googleカレンダーなどのカレンダーアプリを開き、自分とのアポイント(ブロック)を入れてください。
【悪い入れ方】
月曜:空いた時間でブログを書く
【良い入れ方】
月曜 9:00〜11:00:ブログ執筆(スマホ電源OFF)
水曜 10:00〜11:00:来月の戦略策定
このように、他人の予定(会議やメール)が入る前に、自分との約束を確定させます。
お金を貯めるときも、給料が入ったらすぐに「先取り貯金」をしますよね? 時間も全く同じです。最も貴重な「第2象限の時間」を先に確保してしまうのです。
ちなみに僕の場合
今読んでいただいているこのブログ「torif」の記事執筆は、まさに第2象限(緊急ではないが、将来の資産になる仕事)です。
なので、僕は「毎朝、PCを開いて一番最初に記事を書く」と決めています。メールチェックよりも前、何があっても午前中にやる。これを「最重要タスク」として先取り予約しています。
このルールを作ってからは、以前のように「忙しくて書けない」と言い訳することがなくなり、定期的に記事を更新できるようになりました。その結果、徐々に検索からの流入数も伸び始めています。「先取り」の効果は絶大です。
Step4:余白(バッファ)をあえて作る
計画は必ず崩れます。絶対に崩れます。
急な修正依頼、突発的なトラブル、子供の発熱、自身の体調不良。これらは「想定外」ではなく「想定内」です。
だからこそ、スケジュールをパンパンに詰めるのは自殺行為です。必ず「空白の時間(バッファ)」を作っておきます。
具体的なバッファの目安:
- 1日の中に: 午後3時〜4時は予定を入れない(修正対応やメール返信用にする)。
- 1週間の中に: 金曜日の午後は「予備日」として完全に空けておく。
もしトラブルが起きれば、このバッファを使って対応します。そうすれば、他の重要な予定(松タスク)を犠牲にせずに済みます。
もしトラブルが起きなければ? おめでとうございます。その時間は、あなたの自由時間(第2象限)です。早上がりしてもいいですし、来週の仕事を前倒ししても構いません。
この「余白」があるからこそ、心に余裕が生まれ、常に冷静な優先順位判断ができるようになるのです。
優先度が低いタスクを処理する「捨てる技術」
最後に、分類した「梅」や、第3象限(錯覚)のタスクをどう処理するかについてお話しします。
これらを真面目に全部やろうとすると、せっかく確保した「第2象限」の時間が侵食されてしまいます。
ここでは、2つの「捨てる技術」を紹介します。
AIに丸投げして「60点」で終わらせる
重要度が低い仕事(第3・4象限や梅タスク)に、あなたの全力(100点)を使う必要はありません。
「60点でいいから秒速で終わらせる」ことが正解です。
ここで活躍するのが、ChatGPTやCursorなどのAIです。
- メールの返信文: 「このメールに対する丁寧な断りの返信を書いて」と投げる。
- 議事録の作成: メモを貼り付けて「要点を3つにまとめて」と指示する。
- 調べ物: 「〇〇についてメリット・デメリットを表でまとめて」と聞く。
自分(人間)がやるべき仕事は「意思決定(選ぶこと)」と「創造(生み出すこと)」です。
それ以外の「作業」は、可能な限りAIにアウトソーシングしてしまいましょう。クオリティは60点で十分です。だって、重要度は低いのですから。
「やらない」と決めてリストから消す
これが究極の技術です。
ずっとタスクリストに残っている「いつかやりたいこと(梅タスク)」はありませんか?
- 「英語の勉強をやり直す」
- 「溜まっている本を読む」
- 「あの人に連絡してみる」
もし、3ヶ月以上リストに残ったままで、一度も手がついていないなら、それは今のあなたにとって「重要ではない」ということです。
思い切って、リストから削除してください。
「いつかやる」という未完了のタスクは、脳のメモリを無駄に食いつぶします。
削除することで、驚くほど心が軽くなります。「やりたくなったら、また書けばいいや」くらいの軽い気持ちで、定期的にタスクリストの断捨離を行いましょう。
タスクの優先順位に関するよくある質問(FAQ)
- 1. 急な割り込み仕事が入った時はどうすればいい?
-
バッファ(予備時間)で対応します。それでも無理なら、「スライド」させてください。
バッファでも吸収できないほどの緊急タスクが来た場合、その日の「竹(Should)」や「梅(Want)」のタスクは、潔く翌日以降に回します(スライド)。
自分を責める必要はありません。「緊急事態に対応した自分」を褒めつつ、計画を柔軟に書き換えてください。計画は守るためではなく、変更するためにあります。
- 2. 優先順位を決めても、やる気が出なくて着手できません。
-
それは優先順位の問題ではなく「着手ハードル」の問題です。
第2象限(重要タスク)は、脳にとって負荷が高いため、本能的に避けたくなるものです。そんな時は、「2分ルール」を使ってハードルを極限まで下げてください。
「企画書を書く」ではなく「ファイルを開いてタイトルだけ入れる」ことだけに集中しましょう。動き出せば、やる気は後からついてきます。
- 3. いちいちタスクを4象限の図に書き出さないといけないのですか?
-
いいえ、その必要はないです。頭の中で「仕分け」ができれば十分です。
マトリクスはあくまで「思考の補助線」です。毎回図を書く必要はありません。慣れてくれば、「これは第3象限(錯覚)だな、無視しよう」「これは第2象限(投資)だから先取りしよう」と瞬時に判断できるようになります。
書き出すのが面倒なら、実践編で紹介した「松・竹・梅」の3つにざっくり分けるだけでも効果は絶大です。形式にこだわらず、まずは「分ける」意識を持つことから始めてください。
- 4. アナログ手帳とデジタルツール、どっちがいい?
-
予定の変更が容易な「デジタルツール」がおすすめです。
タスクの優先順位は日々変動します。そのたびに手帳を書き直したり、付箋を貼り直したりするのは時間の無駄です。
GoogleカレンダーやObsidian、Notionなどのデジタルツールなら、ドラッグ&ドロップで一瞬で計画を修正できます。PDCAを高速で回すためにも、デジタルへの移行を推奨します。
まとめ:優先順位付けとは「自分の人生の手綱」を握ること
優先順位を決めずに仕事をすることは、流れるプールに身を任せているようなものです。
楽かもしれませんが、どこにたどり着くかは分かりません。他人の都合(緊急タスク)に流され続け、気づけば1年が過ぎていた…なんてことになりかねません。
優先順位を決めるということは、「自分の意思で、自分の時間の使い道を選ぶ」ということです。
それは、自分の人生の手綱を、自分で握ることに他なりません。
まずは今週末、30分だけ時間を取って、「週次計画」を立ててみてください。そして、たった1つでいいので、「第2象限(未来への投資)」をカレンダーに予定として設定しましょう。
その小さな「石」が、あなたの未来を大きく変える土台になるはずです。

